世界の“知”の源流 ブリタニカ国際大百科事典の魅力。
アナログからデジタルへの潮境はDTPだった
---書籍版が電子メディア版に移行していくことになった経緯を教えてください。
岡野:「きっかけは、DTP(電子組版による出版技術)の導入だったようです。最新の日本版を作る時点で、協力していただいていた印刷会社さんが活版印刷に代わるコンピュータの新しい組版システムを実用化しており、これを百科事典に採用しようという話になったんです。

というのも、百科事典の場合、常に項目順に入稿されるとは限らないので、活字で組んだ版を五十音順に並べ替えるとか、索引を抽出するといった作業が非常に大変なんですよ。これらの、それまで人の手で膨大な手間がかかっていた処理をコンピュータでできれば、大きく省力できるだけでなく、データ管理も楽になりますし。」

---考えてみたら、事典の膨大な組版をアナログでおこなうのは大変ですよね。ある原稿に校正が入って行が増えたりしたら…。
岡野:「そのぶん、数十ページにわたって、行が後ろにずれていきますから…。
このシステムをもとに、デジタル化をさらに推し進められないかという動きが、80年代の終わり頃から出てきたんだと思います。つまり、我々出版社が自社内にサーバを置いて、編集者が自分で原稿を編集できてしまえば、業務フローをさらに効率化できるというわけです。

百科事典の場合、一度出版すると、次の版を出すまでに10年ほどかかります。ではその間、編集者は何をしているのかというと、ずっと原稿を集めていたり原稿整理をしていたりすればいいのですが、それなりの人数の編集チームを長期間維持していくのは難しい。かといって、作業開始の時期を決めたとしても、そこで一気に負担が大きくなってしまいます。

そこで、原稿の内容を素早く効率的にアップデートでき、かつ本にするときは、その時点での最新データを取り出せばいいだけ、という仕組みを作った。1990年前後には、すでに完成していたようです。」


加速するデジタル化の流れ
---この時代には、まだそういう仕組みは珍しかったんですね。
岡野:「どの出版社も同じことを考えていたとは思うんです。が、課題も多かった。代表的なのは、文字組方向の問題です。
書籍は縦書きですが、コンピュータは横書きですよね。漢数字もすべて算用数字に直したいですし。一見、プログラムで簡単に直せそうですが、実はそうでもない。たとえば、五反田の“五”が“5”になってしまっては困るわけです。結局、最後は人の目で見て、人の手で直す必要が出てくる。

ジャストシステムのDVD版にも使用している小項目事典は、元から横書きだったので良かったのですが、大項目事典は縦書きなので相当苦労しています。

ほかにも、百科事典では避けられない、特殊な文字や記号などが文字化けしたり、ルビの扱いに困ったり…。ルビの表示はHTMLのタグで解決する方法もありますが、当時は括弧でくくるなどして対応しました。しかし、それでもルビと漢字の対応はコンピュータにはわからない。結局、これも人の手でそのつど指定する必要がありました。」

---電子メディア用に内容をデジタル化するというより、DTPのためのプロセスとしてデジタル化したんですね。
岡野:「当初の目的は、そうだったと思います。電子メディアでの展開ということまで考えていたかどうかはわかりません。
が、デジタル化しておけば、今後必ず役に立つとは思っていたでしょう。」


電子ブックに搭載
---DTPで電子化されたデータを、初めて電子メディア版として活用されたのは?
岡野:「ちょうどDTP体制が整った頃、ソニーから“電子ブック”という規格が発表されたんです。これは、キャディに入った8cmのCD-ROMソフトを液晶画面付き専用プレーヤーで閲覧するもので、これ用のソフトとして発売したのが最初ですね。」

吉川:「ただ、この商品は大項目事典20冊(書籍)とのセット商品で、単独の商品としては販売していませんでした。電子ブック版だけが欲しかった人もかなり多かったようですが…。」

岡野:「あと、この頃は検索に漢字が使えませんでした。検索はすべて仮名。したがって、「あめ」で検索すると雨も飴もヒットしてしまった。それでも、当時としてはすごかったんです。」

--学校では、ブリタニカのLAN版が使われているそうですね。これは現時点でどのくらい普及しているのですか?
吉川:「LAN版は、販売を開始して5年ほど経ちます。現在の納入実績は、日本国内でおよそ3,000校です。小学校がもっとも数が多いので、小学校への納入数が多くなっていますが、内容的に低学年だと難しいので、4年生以上〜中学生あたりが一番使われているんじゃないでしょうか。」
電子ブック版は、このような専用機器で閲覧した。「データディスクマン」という名称を覚えている方も多いだろう。
ちなみに、「電子ブック」はソニー株式会社の商標。

理数系の化学のモデルや数学の公式も、画像で収録。
---やはり、授業で使われるケースが多いのでしょうか?
吉川:「LAN版はサーバにインストールしていただいて、校内LANで使うのですが、最近はPC教室が整備されていますから、調べ学習などのひとつの情報源として有効に活用していただいています。
あと、やはり百科事典ですから、理科や社会の授業が利用の中心になりますね。」

>>また、百科事典は、あなたの日常生活をぐっと豊かにしてくれるアイテムでもあるのだ!(次のページへ)

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