「新明解国語辞典 for ATOK」「新明解類語辞典 for ATOK」
辞書担当者 特別インタビュー

“言葉で言葉を説明し尽くす”のが新明国である・前編

9年ぶりに全面改訂した『新明解国語辞典』。
「一太郎2021 プラチナ」には、最新版「新明解国語辞典 for ATOK」と、類義語を簡単に調べられる「新明解類語辞典 for ATOK」を搭載します。
新明解国語辞典は「ほかの辞書とは違う」とよく言われます。
どこが違うのか? 何が違うのか? そして辞書を作るに当たって何を大事にしているのか?
新明解国語辞典の謎を解明し、一太郎で便利に使うコツを担当者の方々に直撃インタビューしてきました。
辞書作りの大変さと素晴らしさをぜひみなさんにも知っていただきたいと思います。

前 編

後 編

辞書出版部
部長

山本 康一 氏 【写真:右】

『新明解国語辞典 第八版』編集部統括。

辞書出版部

吉村 三惠子 氏(元編集長)【写真:中】

『新明解国語辞典 第八版』編集部(第三版の途中から第七版までずっと新明国を担当。第八版の途中で定年となり、延長雇用で担当を継続)

辞書出版部

荻野 真友子 氏 【写真:左】

『新明解国語辞典 第八版』編集部。

9年ぶりの全面改訂で「考える辞書」宣言をされていますが、具体的にはどういう意味でしょうか。

山本氏:
新明解国語辞典(以下、新明国)とはどういう辞書なのか、また今の社会状況の中で、新明国をどのように役立ててもらえるのかを考えたいという意図で、こういうキャッチコピーにしました。SNSなどを中心として、うまくかみ合わなかったり、すれ違いが起こったり、またそれが誹謗中傷に発展したりといった事例が頻発しています。一度、立ち止まって言葉について考えるということが必要ではないかと。また、教育現場では読解力不足が大きな課題になっていたりと、いずれも“言葉”の問題だと思えます。では、それらをどう解決していくかというと、やはり言葉を的確に理解して使用するということが重要になってきます。そのためには言葉の本質と向き合う必要があり、読む人のほうでも考えてもらう機会になれば、ということなんです。

改訂のポイントはどういったところですか? 具体例も併せてお教えください。

山本氏:
新明国の一番のコンセプトは「言葉の意味の本質を捉えて深く理解する」ということなので、今回も語のブラッシュアップにかなり力を注ぎました。また、いわば「時代と社会を見つめる視点」というキーワードになりますが、新しい意味が生じてきた語にも、新しい意味を追加しました。「地頭」「忖度」「沼」などです。「ロックダウン」「コロナウイルス」「エッセンシャルワーカー」など新型コロナウイルス感染症関連の語については、ちょうどこの辞書編集の最終の時期に感染拡大による緊急事態宣言が発出され、迷いましたが入れる必要があると考え、かなりギリギリで入れることにしました。

新しい社会の現象なども反映しています。「ヘイトスピーチ」や「LGBT」などがそうです。例えば、「恋愛」についての語釈は、前版までは「特定の異性に対して…」という説明で始まっていますが、第八版では「特定の相手に対して…」と修正しました。人権への配慮、という意味合いです。そういう観点で修正した部分はかなりたくさんありますね。

荻野氏:
国語辞書ですから差別的な語も掲載しています。例えば戦前の小説などに出てきても、それがどういう意味かわからないと困るので。注釈などを付けて「この語は使わないほうがいい」ということがわかるようにしています。わかってこそ、「使わない」という選択ができるわけですから。

「地頭がいい」「政治家の意向を忖度する」「古地図の沼」など、時代に合わせて新しい語釈や用例を追加した

吉村氏:
古い言葉は今使っていないからといってすべて辞書から削除していいかというとそういうわけではありません。新明国では基本的に見出し語は削りません。

それなので、語数とページ数は増え続けます。今回64ページ、語数は1,500語増やしました。第七版からは判型も少し大きくして1ページあたりの行数を増やしていますが、それでも64ページ増えました。束(厚さ)が増えると持ちにくくなりますが、新明国のような小型辞書は携帯性も重要なので、紙の厚さを薄くして厚さを変えないという工夫をしています。

山本氏:
「運用」という欄があって、こちらでは具体的な使い方や「こういう使い方はしないほうがいい」などの情報を提示しています。
例えば
「れる」では「お着きになられる/おっしゃられる」など、すでに尊敬表現となっているものに「れる」を加えた用法は、本来誤用とされる。
と記載されています。

筆者:
なるほど。ATOKでは、これらについては「二重敬語」として指摘するような機能があります。

吉村氏:
ほかには、ルビを大きくしました。書体も見やすいようにUDフォントに変更しましたね。辞書の内容だけではなく、紙面レイアウトなど細かいところも意識しています。

「運用」欄では具体的な使い方や誤った使い方などを示し、文書作成に役立てられる

今回の一太郎は「“やりたい”ができる!日本語文書作成の最強装備!」というキャッチコピーですが、文書作成にとって辞書はどのような役割を果たすと思いますか?

山本氏:
用例が役に立つと思います。特に新明国の場合は用例が多いのが大きな特長のひとつです。現代語項目では大辞林より多いと思います。語釈は、どの用例にも共通するように本質的な意味を記述した上で、より多くの用例を掲げて用法がわかるようにしています。

吉村氏:
この名詞だとどういう動詞がつくのか、この動詞だとどういう助詞をとるのかなどもわかります。

荻野氏:
「決まる」などの動詞の重要語には「なに・だれニ」「なんだト」というように、「基本構文の型」が明示されています。これはほかの辞書にはないものですね。「新役員は●●さんに決まった」「今回のコンセプトは●●●と決まった」というように、どういう助詞を使えばいいかなどがわかります。

山本氏:
慣用句や決まり文句、語例などに注釈がついているものもあります。「額面通り」の用例「額面通りには受け取れない」には「今までの経歴が経歴なので、文字通りには受け取ることが出来ない」と説明されていて、ニュアンスもわかるので、文書作成にも役立つと思いますよ。

荻野氏:
文書作成の最中、「自分の表現が妥当かどうか」が気になるときに、背中を押してくれるツールとして辞書を利用するという使い方もあるかと思います。同じような用例が載っていれば、安心できますよね。

信頼性の高い文書を作成するには。

吉村氏:
ビジネス文書は特に、誤解を招く表現はダメですよね。自分が思った意味とは違う意味に取られてしまうと会社の信用にも関わってきます。誤解を生まないよう、最適な言葉を選択しないといけないわけです。そういう意味でも仕事のできるビジネスマンは豊富な語彙力を身に付けておく必要がありますね。

荻野氏:
この人の文章は語彙が豊富だな、教養が豊かだなと感じることがあります。そういう洗練された文章を見ると感動します。

吉村氏:
逆に「やばい」などは感心しませんね。なんでもかんでも、本来の意味とは逆の意味でも使われるようになっています。SNSの時代になってますますこういう表現が多くなってくるのではないかと心配されます。自分の言いたいことを的確に相手に伝えられる言葉と、それを適切に用いるコミュニケーション能力はこういう時代だからこそより大事になってきます。

荻野氏:
今の時代のコミュニケーションは、対面や電話にも増してメールなどテキストでのやり取りが多くなってきています。対面や電話ならニュアンスが伝わりやすいですが、メールは文章がすべてです。となると、やはり言葉の使い方には気を付けないといけない。いかに簡潔に、いかにわかりやすく誤解のないように相手に伝えるか、その重要性が高まってきています。

目的や利用シーンに応じて簡単に文書作成ができる、というのが一太郎2021のテーマの一つでもありますが、シーンごとに特筆すべき辞書の活用スタイルがあれば教えてください。

吉村氏:
児童館や図書館で、語釈から見出し語を当てるクイズをやっているという話を聞いたことがあります。

荻野氏:
例えば「畑に作る一年草。黄色い実が軸のまわりに、ハモニカの吹き口のようにぎっしり詰まって出来る。食用・飼料用。種類が多い。」さてこれは何の語についての説明でしょう、というのが問題です。答えは「とうもろこし」。
語釈から見出しを当てるという言葉遊びですね。新明国は語釈がしっかりしているのでおもしろいと思います。

吉村氏:
昨今、読解力が注目されています。学校では、読解力がすべての科目においてベースとなりますから。そのためには、言葉それぞれの意味をしっかりとつかんで、語感を養っておくことも大事だと思われます。

例えば、「月が沈む」と「月が傾く」。現象としては同じなのですが、「傾く」と表現する場合は「残っていてほしいけど」というニュアンスを含む。そういうことが新明国からわかります。「打つ」と「叩く」はどう違うのかなど、常に意識しながら言葉を選んでほしいです。

筆者:
この辺は類語辞典の出番になるのでしょうかね。

類語辞典はどういう使い方が有効だと思いますか? 国語辞典と類語辞典を併用することのメリットも教えてください。

山本氏:
国語辞典では、どんな意味があるのかがわかりますが、類語辞典では、似た言葉を調べることができます。
例えば「傾く」の場合は、日が傾くという意味で使う「傾く」の類語には、「沈む」「落ちる」「暮れなずむ」「つるべ落とし」などがあります。斜めになることの意味で使う「傾く」の類語には、「かしぐ」「傾ける」「かしげる」「そばだてる」「傾斜」「覆す」などがあります。もうひとつ、勢いが衰える意味で使う「傾く」の類語としては「さきぼそり」「下り坂」「じり貧」「寂れる」などがあります。このように、国語辞典に掲載されているそれぞれの意味の「傾く」に関してそれぞれに類語が示されています。

荻野氏:
類語辞典は、言葉探しができるんですよね。頭の刺激にもなります。「傾く」の意味を国語辞典で調べた後、類語辞典で調べて「暮れなずむ」という言葉を見つけたとします。類語辞典にも簡単な意味は記述されていますが、もっと詳しく知りたいと思ったときは、また国語辞典に戻って「暮れなずむ」を調べるんです。こうやって国語辞典と類語辞典を往復するとさらに理解が深まっていきます。似た言葉でも少しずつニュアンスが違うため、この文章のこの場面ではどの言葉を使うのが最適なのかがわかり、適切な使い分けができるようになります。

筆者:
電子辞書の場合は特に、タブを切り替えるだけですぐに使用する辞書を変更できるので、国語辞典と類語辞典の行き来も、まったく面倒がありませんね。

山本氏:
ビジネス文書を作成する際など、「傾く」を名詞で使いたいけど「傾き」だとちょっと違う…と思ったときは、「傾き」で類語辞典を引くと「傾斜」という言葉が出てきます。類語辞典はこのような使い方もできますね。

筆者:
ビジネスマンが企画書を書くときなどは、動詞を名詞化するだけではなく、適切な語彙を使いたいものです。それがすぐに調べられるのはありがたいですね。

似た言葉を探せる類語辞典。国語辞典との併用でさらに語彙への理解が深まる

国語辞典も類語辞典もワンタップで行き来できる

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