花子と強力に連携、地図をそのままベクトルデータとして出力できる機能が人気の『速攻!全国ゼンリン地図帳2』。ゼンリンの正確な地図データを花子上で思いのままに加工して、美しい案内図や教材を作成することができるのが嬉しいですね。

 実はこの機能、地図を(GIFやJPEGといった)画像ではなく、拡大や縮小を繰り返してもデータが劣化しないベクトルデータとして書き出すという点で、唯一、『速攻!全国ゼンリン地図帳2』だけが実現した画期的な機能でもあるのです。そこで、北九州市の株式会社ゼンリンに取材を敢行! 開発を担当されたスタッフの方々に、お話を伺いました。

花子との連携は、地図ソフト活用の新たな可能性
 
−−−ゼンリンの地図は、どのように作られているのでしょうか。
広瀬さん
 
営業本部
流通営業部
広瀬 元子さん

広瀬「全国に80カ所以上の事業所があり、そこに所属する年間のべ28万人の調査員が、地道な現地調査をおこなっています。雨の日も風の日も関係なくですから、正直、かなり大変な仕事ですね。

 調査員は前回の調査原図(白地図)をもとに、新たにできた(あるいはなくなった)建物や施設、居住者名などを細かにチェックします。この原図は制作部門に送られ、オペレーターがその更新内容を最新の地図データに反映させていくんです。その後、正しく反映されているかどうかの確認作業を入念におこない、これをパスしたものがデータベースに登録されていく、といった流れですね。詳しくは当社Webサイトでもご紹介していますので、ご覧いただければと思います。」

−−−気が遠くなるような作業の積み重ねですね…。そのようにしてできた貴重な地図のデータを、しかもベクトルデータで画面上に出力できてしまうことに対して、抵抗を感じませんでしたか?

原口さん
 
制作本部
商品開発一部
マネージャー
原口 幸治さん

原口「開発としては抵抗というより、むしろ面白いと感じました。社内の評価も高いですね。それまでの当社のコンシューマ向け製品には、地図データ自体を編集、加工するというコンセプトはありませんでした。『速攻!全国ゼンリン地図帳』と花子の連携は、地図ソフト活用の新たな可能性のひとつだと思ったんです。」

−−−今までにない機能であるぶん、開発にもご苦労があったのでは?

原口「プロ用はともかく、コンシューマー向けのソフトで地図データ出力機能を実装するのは初めてだったこともあり、この機能をユーザーがどう使うのか、利用目的や利用シーンがなかなかイメージできませんでした。出力できる範囲や縮尺の種類などを、どこまで盛り込めばいいのかがわからない。

 どちらかというとジャストシステムのみなさんの方が、自分達より“こういう風に使いたい”というビジョンを持っている。その点に関しては、担当の方とかなり意見交換をさせていただきましたね。」

−−−花子に出力する要素が9つのレイヤーに分かれているうえ、あらかじめ選択できるのは親切ですよね。「道路」と「地形」だけ書き出したい、といったときにもわかりやすい。

 
全国での地道な現地調査で得られた情報が、熟練の技でワークステーションに入力されていく。

西郡「当社が持っているオリジナルの地図データには、何百層にもおよぶレイヤーがあるんです。『速攻!全国ゼンリン地図帳2』も、内部には約300ものレイヤーを持っている。その中から、花子用に「行政界」「地形」「施設」「道路」「鉄道」「建物」「住所文字」「その他の文字」「記号」という9つのレイヤーに集約して出力しています(※)。

 つまり、いくつかのレイヤーをひとつのレイヤーにまとめているんですね。たとえば、「鉄道」のレイヤーでは線路のレイヤーと駅のレイヤーをまとめるとか…。こういった膨大な“データのまとめ”を、どんな単位でおこなえば一般の方々がわかりやすいのか悩みました。」

原口「花子は図形ソフトですから、いっそ、文字、ポリゴン、線分、みたいな分け方をしようかとも考えたんですよ。でも、地図として使うんだからと考え直して、出力の方向をオブジェクト単位からパーツ単位に変えたんです。」

※一部出力対象外となっているデータもあります。

 
花子上でも、地図として使えるように
 
西郡「表現についても悩みました。『速攻!全国ゼンリン地図帳』で表示している文字の大きさと、花子に切り出したときの文字の大きさを同じにしなければならないんですが、これが難しい。表示する縮尺によって文字の大きさがまったく変わってきますし、印刷したときの文字や線の色、コントラストなども調整しなければなりません。『速攻!全国ゼンリン地図帳』上では、文字に白い縁どりを入れて可読性を向上させたりしているんですが、花子ではそれができないんです。結果、ユーザーさんから“見え方が違う”との指摘を受けたりもしたんですが…。」

原口「単に図形データとして出力してやるだけなら、それほど悩まずにできたんです。が、花子上でも、あくまで地図として使えるようにしたかった。であれば、やはり地図なりの表現であるべきだろうと。花子に出力したとき、“何これ?”にならないこと。なおかつ、きちんと地図として編集できること。それが大切なことだろうと思いました。」

−−−今回の『速攻!全国ゼンリン地図帳2』では、出力できる範囲が前作に比べて広がりましたね。これで、より利用シーンの自由度が広がったと思います。

 
「施設」「道路」「建物」「住所文字」など、9つの要素を「レイヤーに分けて」花子上に出力できるのが、『速攻!ゼンリン地図帳』シリーズの大きな魅力。この部分にも、実に多くの苦労と工夫が込められている。
 

原口「そうですね。この範囲についても調整を重ねました。建物まで入っている細かいデータなので、あまりに広い範囲を出力可能にすると、切り出されたデータがとんでもなく大きなものになってしまいます。そこで、“表示されている場所がどこか識別できる最低限の範囲”を設定しました。実は、あまり多くのデータを取り込もうとすると、花子が処理できるオブジェクトデータの上限を超えてしまうという都合もあり、難しいところなんです。」

西郡「かといって、データを間引いたりするのも違うだろうと。ですから、都市部など、建物や道路が密集した場所を切り取ろうとすると、データの上限を超えてしまう可能性があります。が、それはご容赦ください、ということで(笑)。もし、データの上限を超えてしまう場合は、書き出すレイヤーを少なくすることで回避することができるかもしれません。」

−−−ユーザーからの反応はいかがですか?

広瀬「『2』については、まだこれからですが、旧バージョンでは色についての希望が多かったですね。そこで、『2』ではお応えしようと、開発スタッフが頑張りました。おかげで市街地図の場合、『速攻!全国ゼンリン地図帳2』の表示内容に近い地図色で出力できるようになりました。」

西郡さん
 
制作本部
商品開発一部
リーダー
西郡 祐介さん

原口「一番最初に作ったときは、花子用の出力はモノクロデータだったんですよ。白地図を出力して、教材などとして使うときは、花子で着色する。そんなコンセプトを考えていたんです。それが途中から、やはり同じような地図として見たいという要望があちこちから出てきまして、それで色付きで出力できるように変更したんです。」

西郡「色という点でいえば、出力時に地図や文字の色の組み合わせが14種類から選べるんです。一見地味な機能ですけれど、実はここが一番苦労したところなので(笑)、ぜひ使ってみてください。」

広瀬「ユーザーには教育関係の方も多いようで、製品への反響自体も大きかったですね。お話を伺っていると、地図データを利用した教材や文書をたくさん作られているんだなぁという印象を受けました。どんな地図情報をどんな風に加工して…という明確なニーズが各ユーザーにあるはずなんですよね。それを私たちも見てみたい。そして、さらにいい製品作りへと生かしていきたいと思います。」


 ゼンリンはカーナビの地図や住宅地図で大きなシェアをもつ、地図のトップブランド。 老舗でありながら、そこにとどまることなく、より正確で付加価値の高い地図への進化を目指すゼンリンスタッフ。その真摯で積極的な姿勢を象徴しているのが『速攻!全国ゼンリン地図帳2』という製品なのかもしれませんね。

[アンケート]調査員の方に聞きました! 現地調査はこんなにタイヘン!
全国調査員の地道な調査努力を礎に成り立つ、ゼンリンの地図。調査員の中には、女性も多くいらっしゃるとのこと。雨の日も風の日も、はたまた吹雪の日も。日々の調査には、苦労も尽きません…。

現地調査で苦労すること

「体濡れても図面濡らすな」が合言葉。雨の日の調査は、本当に服がびしょ濡れになります。
●日焼け防止のために農家用の長手袋や帽子を被ったりして肌をケアしますが、結局は焼いてしまいます。
●担当区がトイレのない山間部や住宅街の場合、トイレを7〜8時間我慢することもしばしば。
●犬に吠えられ、その声がうるさいために住人の方に不審がられたりしたことがあります。また、犬に噛まれたことも。
●冬場の調査では、ペンのインクが出にくいうえに手がかじかんでしまい、文字を書き込むだけでも大変です。

さまざまなご苦労をされながら、より正確な地図作成のために努力を惜しまない調査員の方々。中には、こんなご意見もありました。

●辛いこともありますが、いたわりの言葉をかけていただくこともあります。そんな優しさに触れると、苦労や疲れも一瞬で吹き飛びます。街の変化を実感できるという楽しみもありますし、みなさんの生活を支える地図を作るという、大きな使命感を感じられる仕事です。

もし、ご近所でゼンリンのスタッフジャンパーを見かけたら、「ご苦労さま」と、ひとこと声をかけてあげてくださいね!

今回お邪魔したのは、ゼンリン電子地図開発の本拠地、テクノセンター。ここでは、地図情報のデータ化と編集、またカーナビや携帯電話向けナビゲーションサービスの開発などをおこなっている。