あの『広辞苑 第六版』はこうして作られた!  前編
10年ぶりに改訂された第六版の登場で、大いに話題となった『広辞苑』。
国語辞典に百科事典的な内容を加え、さらにその時代を象徴する言葉を取り込みながら成長を続ける本書は、日本語辞典の代名詞として老若男女、職業を問わず愛され続けている。

また、書籍版だけでなく、電子メディア版も人気が高い。中でも、ATOK 2008と連携して軽快に利用できる「広辞苑 第六版 for ATOK」(以下、ATOK版)は、Just MyShopでも人気の定番商品だ。

では、その広辞苑 第六版はどのように作られたのか。誰もが気になる誕生秘話を出版元に直撃インタビュー! その一部始終をここにご紹介する。
10年もの膨大な月日を費やして制作!
10年ぶりのリニューアルということで、
首を長くして待っていたユーザーも多かったのでは?
岩波書店 編集局『広辞苑』編集部 上野 真志 課長
おかげさまで、大きな反響をいただきました。
発売前には、書籍は30万部、DVDは5,000本程度と売上予想を立てていたのですが、この数字は発売日分の注文でクリアしてしまいました。
結果は、予約された方と店頭販売分を合わせて、書籍が34万部、DVDが8,500本。製造部門では、紙やDVDパッケージが足りなくなるのではないかと、大わらわでした。

書籍版と電子版を両方買ったよ、という声も多かったですね。パソコンで使うときは電子版で、という需要は非常に多い。ATOK版が売れていると聞いて、やっぱりなと思いました。

書籍版の『広辞苑』第六版は2008年1月11日発売。
紙は、めくりやすさや印刷の裏写り防止などを追求して専用に開発されたものが使用されている。

書店では、主にどんな方々が買われるのでしょうか?
紀伊国屋書店さんのPOSレジの集計では、30〜40代の女性が多いということです。ちょっと意外に思われるかもしれませんが、お子さんの教育に熱心な世代にあたりますね。
一方、書籍に同封したアンケートはがきの戻り集計では、60代以上が圧倒的。
ただ、下は9歳から上は93歳の方までいらっしゃいます。きわめて幅広い年齢層に買っていただいていますね。


そんな広辞苑の第六版ですが、
作成に関わったスタッフの方はどのくらいいらっしゃるのですか?
うーん、作業の段階で関わる人数が変わるので、数え方が難しいんですが…。
まず最初に、新しく載せる言葉の候補集めから始めます。とはいえ、一朝一夕には集まらないので、最新版の発売日翌日から次の版の準備を始めるという感じですね。それこそ、発売日当日に新聞に出た新しい言葉もメモします。この作業は2、3人で、5年ほどかけておこないます。

候補がある程度集まった段階で、言葉の分野ごとに担当を決めることになります。この段階での編集者の数は、第六版では15人になりました。
新しく加える候補のほか、すでに入っている言葉について解説が古びていないかなど、編集者がいろいろ調べて、それから校閲をお願いする先生に会いに行きます。
第六版の場合、これに対して校閲の先生は165人ですから、ひとりの編集者が平均10人以上の先生を受け持つことになります。

最近は言葉の分野がどんどん細分化されてきているので、先生の数も増えています。たとえば、昔はコンピュータ分野の言葉をひとりの先生が受け持っていましたが、現在はハード、ソフト、応用…と分野が細分化しており、それぞれ別の先生にお願いしているんです。今回は、インターネットに関係する言葉が爆発的に増えたりもしましたし。

同じように、医学でも、外科、内科、小児科、漢方などがありますよね。また、ひとつの分野における言葉の数が多いときも、複数の先生に分けてお願いするケースがあります。


今回の第六版では、およそ1万語が新しく追加されたと聞きました。
追加候補は、本当は10万語ほどありました。が、その中から、言葉として定着している、あるいは今後定着するであろうものを検討した結果、1万語になった。

なお、新規追加以外にも、すでに旧版で載せている言葉の解説をアップデートをするなどしています。昔からある言葉でも新たな意味が追加されたり、意味そのものが変化したりしますから。

また、ある言葉が単独の分野だけで使われるとは限りません。また、分野が違うと、定義が微妙に違うこともあります。その調整も必要です。他にも、図版の発注や、書いていただいた原稿の裏取りをしたり…。これらの、先生方とのやりとりをしながら編集を進めていく作業には、2年ほどかかります。

販促物『広辞苑ものがたり』は、広辞苑の歴史や制作・製本に携わる人々の言葉など興味深いコンテンツ。一太郎文藝にも搭載されている書体「秀英体」の話なども掲載。


執筆していただいた分野別の原稿を50音順に並べ替えないといけませんよね。
それにも、やはり2年ほどかかりますね。本やDVDの形にするための構成作業をする期間です。
この作業は20人ほどで始めて、途中からそれまで編集を担当していた人間も加わっていきます。

この段階で大切かつ難しいことのひとつが、掲載する言葉のバランスを考えること。
たとえば現代語においても、造語力があって意味の広い言葉と、ある特定の局面でしか使われない言葉では、解説のボリュームに差があって然るべきで、同じ文量だったりするとおかしいんですよ。そういった調整は大変ですが、必要不可欠ですね。

後編では、収録されている言葉や図版に関するエピソードなどを
ご紹介します。
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